エディターキックは大変だし、上から目線でもない。 I do not like Editor Kickout but

投稿者: | 07/18/2025

論文を投稿して、3日後位に出版社からメールが入ります。心の中で「きたか・・・」と思いつつそっとメールを開けます。通常、良いメールではありません。

「 あなたの論文は、残念ながら 当雑誌では受け入れません」

いわゆるエディターキックです。編集者の最初のチェックで、査読に回すまでもなく却下。いわゆる門前払い。

これは正直悔しい(よくありますが)。

「 俺の血肉を注いだ論文は、検討にすら値しなかったのか・・・」 と呪いたくなります。

想像します。きっと編集者は 超「上から目線」の嫌な奴に違いない。

そもそもエディターキックされると、すなわち別の雑誌に投稿しないといけない。

雑誌ごとにフォーマットなどいろいろ違いますので、修正が必要。投稿時のフォームへの入力も大変。通常2−3時間は失います。ほんとに辛い。

そんな経験が多々ありましたので、自分ではできるだけエディターキックはしたくないなぁと思ってました。

しかしエディターを始めてみると、エディターキックはとても重要ですし、責任も重い。いろいろ考えます。

エディターキックの基準としては、個人的に以下を重要視しています。

1。体裁がおざなり。

以前は多かったのですが、英語の誤字脱字だらけのものがあります。読み出した時点で気持ちがゲンナリします。Microsoft Wordのスペルチェックで引っかかるレベルのものだと、その手間すらしなかったのかと思い、やる気が爆下がりします。

もちろん誤字脱字だけで却下するわけではないですが、著者のやる気と誠意の低さを感じ、その後のチェックも基本的に否定的になります。

かつ、雑誌の様式(フォントの大きさや、表を文章の間に入れるか最後にまとめるか)に全く沿っていない時、他雑誌に投稿したものをそのまま使ってるな とこれまたゲンナリします。

だってラブレターが誤字だらけだったり、コピーしたものだった時、その告白受けますか?

しかし、最近これは激減してきました。AIの発達でチェックしてくるようになったのだろうかと想像しています。

2。倫理基準が適当。

これは実はとても重要視しています。参加者への説明をどのようにしたのか?倫理審査をきちんと通したか?

論文を書くときに倫理基準の記載はあくまで補足的な内容なので、あまり一生懸命書く気にはなりにくいでしょうけど、載せる雑誌の信用という意味ではとっても大事。変な内容のものを載せてしまうと、信用が揺らぎます。

以前、「後ろ向き研究(カルテの記録を掘り返して行った研究)だから、参加者への説明は割愛しました」と論文に書かれていました。しかし、内容は「前向き研究(研究開始時点から経過を追っていく研究)」のように見えました。これは、非常に危険な匂いがして却下しました。

どんなに素晴らしい論文でも、この倫理に関しての記載がおざなりだと即アウトになることが多い(その後 再提出しても基本的に疑ってみられる)ので、気をつけられた方がいいと思います。

3。結論が飛び過ぎてる。

意外とみてるのが、結論です。自分で書く時もそうですが、結論は勢いでパッと書いてしまうことが多いです。それまでのデータや、議論などですでに著者は燃え尽きてます。気持ちはわかります。

しかし、実際論文を読んで、最後の結論が明らかに飛躍し過ぎていると「この研究者、誇張しすぎな人かな」と研究者の誠意に疑念が湧きます。

例えは難しいですが

「好きなあの子が、俺と目が合って微笑んだ」→(結論)「あの子は俺のことが好きだ」

という飛躍でしょうか。

この場合、科学的にはせいぜい「目も合わせたくないくらい嫌われてはいないようだ」が結論としては妥当かと思います。

(注:経験談ではありません。)

これだけでエディターキックに直結しないのですが、重要な判断材料になります。

4。公共のビッグデータを検証してるだけ。

これは現在ものすごく多く、頭が痛い問題です。縁もゆかりもない公共のデータベースを検証して有意差がでた。論文書きました。というものです。

大きな問題として 心を全く揺さぶられないのです。著者たちの普段の悩み・苦悩、医学を良くしていきたいという思いが全く感じられません。ただの論文数稼ぎ、業績づくりにしか思えないのです。

最近、この内容の論文の急増から、雑誌でも採択規定の見直しがすすんでいます。大きな流れとしては、「公共データはあくまで他のデータと一緒に使用すべきで、単独でデータとして意義があるかは疑問。」という方針がとられているようです。

私も同意します。

5。内容

内容が革新的か?というのもエディターキックの基準になるようですが、実はここは雑誌によって千差万別。

インパクトファクター(論文の引用数の指標、雑誌の格付けに使われます)を重視している有名雑誌は、如何に社会にインパクトを与えて引用してもらうかで勝負しているので 必死かと思います。

私が担当している雑誌は、インパクトファクターよりも論文の科学的整合性・誠実さを重視しているので、正直私は革新性・新規制・インパクトは査読者に任せようと思っています。考慮するのは、あまりにも既存の論文の焼き直しなのがあからさまな時くらいでしょうか。

※私見ですが、私は新規制や革新性を重視する雑誌もいいですが、同時に重視しない雑誌も重要だと思っています。出版バイアスという科学界の言葉があります。「差が出た結果が、より多く公表されることの危険」です。

たとえば、ある検証で10人の研究者で、2人だけが差が出たとします。8人は差がでなかった。しかし論文を書くのは、その差が出た2人だけのことが多い(差がなかったという論文は、基本的に面白くないし引用されない。掲載されにくく、書かない人が多い。)

しかし、はたしてその差は意義があると言えるのでしょうか?それとも偶然でしょうか?でも、論文を目にする多くの方は、2つも論文が出てるなら本当に違いないと思ってしまいます。そういう意味で、インパクトファクターを(あまり)気にしない雑誌の存在はとても大事だと思います。

こういった内容を確認し、エディターキックをするか、査読に回すか判断します。

正直大変です。エディターキックの場合、結局編集者一人の判断で決定するわけなので、責任重大。きちんと合理的に説明できるか、自分の中で何度も反芻します。

決して上から目線で官僚的に却下してるわけではありません。

まぁ、苦労して入力して投稿して、すぐエディターキックされると、再投稿は修正やら入力仕直しやらが大変です。

「ああ、また再投稿か・・・俺の時間を返せ」と呪いたくなる気持ちはよくわかりますが、編集者は編集者で大変なんだなと 少し思ってもらえると幸いです。

ちなみに私は「論文投稿は7転び八起き」と思って投稿してます。8回目でアクセプトされればいいやと。

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