医療現場において、24時間患者さんの病状は変わっていくので24時間対応していく必要があります。治療方針を決定するのが医師の仕事だけに、では平日の日中以外に誰が決定するのかは頭が痛い問題です。
現実的には以下に分類されるのではないでしょうか。
⑴ 主治医(夜間は当直医対応のバリエーションあり)
⑵ 複数主治医(グループ、チーム)
⑶ 時間交代制(シフト)
そこに子育てが加わると、難しい事態になります。子供の病気などでの予定外の変更が多いため、⑴主治医制だけでは対応困難になります。
また、特に外科では主治医は術者を意味することが多いため、患者と主治医のつながりはとても強固になります。
せっかく当直体制を敷いていても、夜間当直医がどこまで踏み込んでいいのか?こだわりが強い外科医だと、「勝手に指示を出された!」と好意を逆恨みすることがあるので、結局「主治医に聞いて」と悪循環に陥ってしまうわけです。これは先日こだわりを減らした方が結局ハッピーでは?と、以下にまとめました。
というわけで、今回分かりやすいように、上記3つをまとめてみましょう。
(1)主治医制(当直体制含む)
メリット
組織内の命令伝達系統がシンプル(治療方針を誰に聞けばいいのか分かりやすい)
医師は決定権が自分にあるため仕事の充実感が得やすい
デメリット
主治医に連絡が取れないと何も決定できない
医師同士がお互いに、それぞれの患者も含めて無関心になりやすい
主治医の技術知識レベルが低かったり変な人だと、患者さんが迷惑する
患者さんの急変が重なると医師個人への負担が激増する。
(2)複数主治医(グループ)
メリット
医師の連絡先が複数あるため、治療に関して誰かが対応・決定できる。
治療方針が相談しながら行われるため、標準的な治療が行われやすい
負担が分担できるので医師のストレスが減る。
デメリット
医師が把握しないといけない患者さんの人数が倍増する。
チームがうまくいってないと、チーム内の誰かに負担が偏在し、かえってストレスが強くなる。
個人個人の責任感が薄くなり責任を持った決定が行われにくく、方針決定に時間がかかる。
(3)シフト制
メリット
医師の勤務時間が限定されているため、集中して仕事に取り組める。勤務時間外の予定が立てやすい。
医師が勤務時間外に確認事項がないため電話がなく、ストレスが少ない。
デメリット
勤務につく度に、患者病状把握に時間を使う必要がある。
面倒なことを次のシフトに先送りしようとする危険がある(特に勤務終了間際)。
患者側は、誰が方針決定者かわからないため不安を感じやすい。
このようにまとめてみると、それぞれのメリットは他のデメリットでもあることがよく分かります。言えることは、全ての組織に適応するベストの制度は存在しないのではないかということです。
ただ、それぞれ向き不向きはあると思います。
患者病態が複雑→主治医制の方が病状把握に要するトータルの時間を節約できる
医師が少ない→主治医制が全体で見れる人数は多い(主治医制だと1人で10人、2人で20人。複数主治医制だと2人で20人を同様のレベルで理解するのは困難でしょう)
こう書くと主治医制が素晴らしいように聞こえますが、一方主治医が変な人だったら患者さんは大変です。また、予想外の事態が発生した際に、1人の主治医への負担は激烈です。
複数主治医制・シフト制は、比較的定型化された治療を行い、あまり方針に迷わなくて良い時には非常に有効でしょう。
医師の人数に余裕がある時に、複数主治医制やシフト制の選択が出てくるかと思います。一方、組織内の連携がうまくいっている時はいいですが、人間関係に問題があると一気に瓦解する危険があります。
主治医制および術者であることは責任ともつながっており、それは「やる気」「仕事の面白さ」とも大きく関与しています。これは次回まとめていきます。
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